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トイレは文化財か? ・・・東福寺の東司・・・


 紅葉の名所として有名な京都の東福寺には重要文化財に指定されている「東司」がある。

 禅寺では一般にトイレのことを東司(「とうす」と読むが、他に「とす」、「とうじ」、「とんす」、「とっす」等、種々な読み方があるらしい)と表現しているようである。「東司」の語源は何処にあるのかについては、ここで詳細に考察するつもりはなく、別サイト『禅寺のトイレ:なぜ「東司」、「西浄」か』で詳細考察した。一般に言われているような「寺の東側に設けられているから」というような実に安易な理由付けだけはしたくないし、現に東福寺の「東司」は境内の東側にはなく南西側にある。
東福寺の東司(1)
 左の写真は重要文化財に指定されている東福寺の「東司」を東側から見たもので、かなり大きな建物である。
東福寺の東司(2)
 左の写真は北東側から見た東福寺の「東司」である。この「東司」は室町時代(15世紀-16世紀前期)の建築であり、現在は勿論使用されていない。

 入り口は写真に写っているように建物北面に一ヶ所である。入り口の上部で屋根に近い場所に『東司』と書かれた額がかけられている。入り口には鍵がかけられていて、中に入って見学することは出来ない。ただ、普通の大人がかろうじて中をみることができるような高さの位置に無双窓が付けられており、狭い隙間から内部の観察が可能である。
東司の内部(1)
 「東司」の東面にある無双窓の隙間から内部を撮影したのが左の写真である。

 入り口から真っ直ぐに広い通路があり、通路の両側に写真に写っているような瓶(かめ)が入り口から奥側に向かって数多く埋め込まれている。

 建物の中に入れないので正確ではないが、瓶の径は30cm程度、深さは数10cm程、瓶と瓶との間の間隔(瓶の縁と隣の瓶の縁との間の間隔)は50cm程度である。この瓶が便槽になっているのであるが、瓶と瓶の間には仕切りはない。

 この「東司」の中には説明が書かれた文や絵が掲示されているが、掲示物の一つに「東司」の内部を描かれた絵がある。それによれば、便槽は仕切りと扉で囲われており現在の個室形のトイレの姿のように描かれている。
東司内の便槽(2)
 左の写真も「東司」内部の便槽を撮影したものであるが、便槽と便槽の間に仕切りを付けた場合、個々の内部は恐ろしく狭いものになってしまい使用しにくいであろう。それに写真にあるように便槽の間に柱があると仕切りを付ける場合、かなり困難になる。

 いずれにしても、重要文化財に指定されていることは、当時の形態がそのまま残され、姿を変えることなしに現在に伝えられていると考えるのが自然であろう。したがって、絵に描かれた「東司」内部は後世になって描かれたものと思われ、当初の姿を表していないものと考えられる。

 かつて、ここで僧侶が並んでウンコしていたのであろう。ここは僧侶の息抜きの場であったという説があるが、この場所の使用に関しそれなりの厳しい戒律があったようであり、実際は自分や他人のウンコする姿に頓着しない修行の場だったと考えたい。

 文化財とはなにか?『文化活動の客観的所産としての諸事情又は諸事物で文化価値を有するもの』とする広辞苑の表現は、かえって難解にしてしまっているが、要するに、この場所に文化価値がある、というのだろうか?

 この東司に仕切や扉がないが故に、僧侶の修行の場であり、精神的生活にかかわる成果をもたらした、という理解に立てば、トイレといえども文化財としての価値を認めなければならないだろう。ここを訪れたときは、僧侶がウンコしながら、超世俗的精神修行を行っている姿を思い浮かべ、瞑目合掌したい。

最終更新日:2016年8月19日

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